http://d.hatena.ne.jp/highma/20090102
ただし、柴田敏雄という名前を見ても最初はピンと来なかった。
検索で調べてみて、かなり前にTVで見てずーっと気になっていた、
写真集『日本典型』の人、ということが判った。
『日本典型』は1992年の発刊(現在は絶版らしい)。
多分その頃、NHK教育の何かの番組で紹介されたのを見たのだろう。
TVに映し出されていたのは、
「日本典型」という言葉からは普通は想像しないような、
しかし「なるほど」と思ってしまうような光景。
コンクリートで覆われた山の斜面。
土木の用語だと法面(のりめん)工事とかいうヤツ。
日本の山の中の道をクルマに乗って走ったことがある人間なら、
必ず見たことはあるもの。そして特に珍しいわけでもないもの。
それが、大判カメラによる微細で精密なモノクロ写真に焼き付けられる。
静謐さ漂うその画面は、現実的でありながらも非現実的、
日常的でありながらも非日常的、
「美」を意識したわけではない実用的構造物に様式美を見出しながらも、
この国が山河に対して当たり前のようにやってきたことを、改めて提示する。
木村伊兵衛賞を受賞したというその写真集は気にはなったが、
5000円以上する高価なモノゆえ、購入は考えなかった。
それから十数年、今回、展覧会というかたちで、
この写真家の作品群に接することができたわけである。
恵比寿ガーデンプレイス、東京都写真美術館。


ランドスケープ−柴田敏雄展。
数ヶ月前に買ってあった「ぐるっとパス」を持って行ったが、
この展覧会では使えない。割引もナシで700円。
『日本典型』の頃は一貫してモノクロでの撮影だったが、
展覧会は近年のカラー作品でスタートする。
しかし被写体や、大判の銀塩フィルムという手法は変わっていない。
まずはその、まるで日本画のような様式美に息を呑む。
緑豊かなニッポンの山林をバックにした人工構造物の鮮やかな原色、
あるいは、
周りと一体化したような色彩まで変貌したがゆえフォルムの特異性が際立つモノ…。
会場の案内図を見ると前半がcolor、中央小部屋のnightを経て、
後半はB&W。
『日本典型』に納められていたようなモノクロ作品が巨大なプリントで迫る。

本来直線的であるはずのコンクリート構造物が自然の曲線に合わせうねるさまに、
サルバトール・ダリの絵画の溶けた時計を想起させられる。
様式美だけではなく、意味を思う。
様々なコトバが連想ゲームのように浮かんでは消える。
崖…、崩落…、保護工事…、国土…、開発…、治水…、国土交通省…、
砂防ダム…、砂防会館…、砂防会館に事務所があった木曜クラブ=田中派…、
土建屋…、自民党…、自民党政治…、ニッポンの政治風土…、などなど。
『日本典型』というタイトルにはそういったモノも見え隠れする。
声高に糾弾する、という手法を決して取らず、ただありのままを提示する。
作品には特別なタイトルはなく、撮影場所が記されているだけ。
自然の脅威と、安全な生活のせめぎあい。そしてその結果。
これがニッポン。これが文明。
昔見た映画『コヤニスカッティ』を思い出し、
フィリップ・グラスの音楽が頭の中で響く。DVDないのかな?
会場の最後のほうに、クライマックス的作品があった。
数少ない日本以外で撮影されたもの。
米国、ワシントン州、グランドクーリーダム。

ダムのコンクリート斜面を大量の水が落ち、
水面に叩きつけられ、不思議な雲のような泡沫が生まれる。
それを真上から捉えた、ほぼ同じ構図の3枚。
流れ落ちる水は、まるで突っ走る文明のようだ。
そしてそれは、あっという間にクラッシュし、
後にはうたかたが漂うだけ…。
この黙示録的な画が撮られたのが北米最大のダム、
グランドクーリーダムというところにも食いついてしまう。
このダムの名前には僕は昔から馴染みがあった。
ボブ・ディランの「愚かな風」Idiot Windの歌詞に出てくるので。
Idiot wind, blowing like a circle around my skull,
From the Grand Coulee Dam to the Capitol.
Idiot wind, blowing every time you move your teeth,
You're an idiot, babe.
It's a wonder that you still know how to breathe.
白痴風、俺の頭蓋骨を吹き抜ける
グランドクーリーダムから国会議事堂まで
白痴風、君が歯を動かすたびに吹き抜ける
君は馬鹿だぜ
まだ息の仕方を知っているのは奇跡だぜ
自らが敬愛するウディ・ガスリーの楽曲からインスパイアされ
歌詞に入れたであろうことは容易に想像がつくが、
10分にも亘る熱唱の中、このダムの名も言霊のように響く。
ちょいと飛躍したが、そんなこんなで、柴田敏雄展、すっかり堪能。
せっかく「ぐるっとパス」持ってきたので使おうと、
パスが使える『甦る中山岩太』展も見る。
ホントに日本の戦前?って思うような、
マン・レイっぽいモダンでシュールな作風。


詳しくは触れないけれど、こっちも良かったあ。
美術館を後にする。
恵比寿ガーデンプレイスから、JRの線路の向こう。


ステラ・マッカートニーってポールの娘さんだったねえ。
デザイナーになったとは聞いていたが、こんなにメジャーになっちゃってたの?
で、この馬の写真の隅には、
(90度回転)

父親が著作権を持った、亡き母親の作品ってことかな。
動く歩道でチンタラと恵比寿駅へ。普通に山手線で帰宅。




